INTERVIEW

中野量太
映画監督

NOVEMBER 10, 2016

RYOTA NAKANO

時の流れを感じさせてくれる
かけがえのない場所と時間

東京から大きな川を渡ると、神奈川県に入る。大きな川を境に、東京と神奈川が向かい合う場所。映画監督の中野量太さんが何か考え事をする時、決まってこの場所に行くという。
「京都から上京して以降、一番来ている場所だと思います。苦しい時も辛い時も、朝から晩まで川にいました。まさに考える釣りニートですね(笑)」 川までは実のお兄さんがビルドしてくれたという黄色い自転車をゆっくりと漕いで向かい、必ず椅子、釣り道具、そして中学時代初めてキャンプに行った時から使っているというコッフェルを持参する。都会の喧騒を離れ自然のなかに身を任せ、ただ無心で釣り糸を垂らしたり、椅子に座って本を読んだり、ただ川を眺めたり。川に触れ、共に過ごすことで解放されていくという。
「僕にとって川は、時の流れを強く感じさせてくれる場所。全てが流れ、一瞬で過去になる。僕の全ての映画に必ず川が登場するのも、川には人を惹きつける何かがあると思っているからです。今まで数々の冒険を思いつき、思いがけない発想が生まれた場所もここでした」
 中野さんにとってなくてはならない場所。そして、そこで過ごす大切な時間。大学卒業後「映画監督になる」と飲み屋のトイレに書き残し上京して以来抱えたであろう不安や葛藤も、全てこの川に流し、歩んできたことは想像に難くない。

自然のスピードで流れる時間に
その身を任せ空想冒険の旅へ

独自の視点で“家族”を撮り続け、自主制作映画「チチを撮りに」は海外の映画祭で高い評価を獲得。一躍国内外から注目を集める監督になった中野さんだが、今現在、どういうスタンスで自身の作品と向き合っているのだろう。
「僕は映画を決して自分のために作っていません。映画監督という仕事は、観てもらう方に経験や冒険を疑似体験させること。1時間で10年間を表現したりしながら、2時間から3時間の冒険の旅に誘っていると考えています。作品を通じて、世界中の方にその冒険を伝えることができる。僕はその冒険を作るために、自然のスピードで流れている時間に身を置くことをとても大切にしています」
昔から旅が好きで、自然と触れ、共に過ごすことが多いという。自身の経験を反映させ、作品に説得力を持たせるうえでも、その全てが今に役立っているのだとか。だが、やはり一番身近で、自分らしさを再確認したい時は、自然とこの川に足が向かっている。
「やっぱり、僕にとってはこの場所が全ての源。自分を解放できる大切な場所ですね。誰しもがそんな大切な場所を持つことができたら、自分らしさを生み出せるのではないかなと思います。いつも見慣れていると気付きにくいかもしれませんが、自然は毎日表情が違います。遠くに出掛けて行ってわざわざ探して見つけだすというよりも、もしかしたらいつもの同じ場所が大切な場所なのかもしれない。自分なりの“時の流れを感じる場所”が、空想冒険にはいいのかもしれませんね」
現在は、新作映画の準備中で慌ただしい毎日を送っている中野さん。今日も1人、川を眺め、空想冒険の旅に出ているのかもしれない。

(上写真)釣り糸を垂らし、無心で川を眺める中野さん。釣りが目的ではなく、自然のなかで流れるスピードに身を任せることが目的なので、釣果は気にしない。時の流れを感じながら考え事を巡らせるこの時間は、中野さんが日常から解放されるかけがえのないひと時。

川に行く時に持っていくのは、折りたたみの椅子に釣り道具、コッフェル、ワンバーナーなど。川を見ながら思いついた冒険や発想は、「ナカノート」にメモ書きされる。この場所で思いついたことが中野さんの映画の種となっているのは言うまでもない。

(川に行く時は、実のお兄さんが組んでくれたという黄色の自転車に乗って。前輪が少し小さなファニーバイクは、前カゴも設置され運搬能力も充分。車体と同色の「FR100」を取り付けて、こんな使い方も。

Photo by KAZUMA ITO
Editor KOKI NOGUCHI

中野量太
/ 映画監督

1973年生まれ。京都出身。大学卒業後上京し、日本映画学校に入学。卒業後は映画の助監督やテレビのディレクターを経て、6年ぶりに撮った「ロケットパンチを君に!」は国内の7つの賞に輝く。2012年、長編映画「チチを撮りに」が、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭において日本人初の監督賞に輝くなど高い評価を獲得。独自の視点で“家族”を撮り続ける。