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外遊びの新しい「カタチ」
自転車編 / 前編

NOVEMBER 10, 2016

きっかけはウルトラライト・ハイキング(以下UL)だった。 90年代後半、アメリカのスルーハイカーたちの間で生まれたこの方法論は装備の軽量化を一気に加速させ、ゼロ年代後半には、その方法論は他のアクティビティにも広がっていくことになる。
たとえば、ファストパッキング。ULよりさらに装備を軽量コンパクト化することにより、オーバーナイトでのトレイルランニングを可能にした最新型の登山スタイルだ。
たとえば、バイクパッキング。「自転車版UL」ともいえるこのアクティビティは、サイクルツーリングの可能性を一気に広げ、「アドベンチャーバイク」は自転車の新ジャンルとして確固たる位置を築いている。
たとえば、パックラフティング。まさにウルトラライトなカヤックであるパックラフトは、ULハイキングやバイクパッキングとも呼応しながら、水の上と陸の上を行き来する新しい旅のスタイルを生んでいる。

BIKEPACKING

東京・岩本町にある軽量な登山用品を扱うムーンライトギア。その運営を行うNOMADICSの活動はウェブショップや海外ブランドのディストリビューション、OMM JAPANレースなどのイベント運営まで多岐に渡るが、その代表を務める千代田高史さんは、実はバリバリのマウンテンバイク・ヘッズ。お店でもバイクパッキングをプッシュする傍ら、プライベートでも頻繁にバイクパッキングの旅に出かけている。そんな彼に、ゼロ年代に生まれバイクツーリングの新しいカタチ、バイクパッキングについて聞いた。まず、そもそもバイクパッキングとは何なのだろう?
「基本的には宿泊装備を持って自転車に乗る行為です。とはいえ、パニアバッグに荷物を満載して日本一周するような自転車旅のスタイルは昔からあったわけで、それとの違いがどこにあるのかといえば、装備が軽量になったことで旅の自由度が増したことだと思います。だからそう意味では、バックパッキングとULハイキングのスタイルの違いのような関係に近いかもしれませんね。」

いろんなスタイルの
バイクパッキングがあっていい

では、バイクパッキングの本場アメリカの人々は、それをどのように楽しんでいるのだろう?
「バイクパッキングと従来のバイクツーリングで何が明確に変わったのかといえば、装備が軽くなったことによって自転車で行ける場所の選択肢が広がったこと。日本より広大に広がる荒野を、長い距離を楽に移動できるようになった。ロングトレイルやジープロードの歩いたら2日くらいかかるような距離も、自転車なら午前中だけで行けますよね? その機動力を最大限活かすためのより軽量な装備、という考え方なんだと思います。もちろん、昔から自転車にパニアバッグを積んでアラスカを旅していたような人はごまんといただろうけれど、それが軽量化によってより多くの人に広まったのがバイクパッキングなんじゃないかな。」
ともあれ、日本とアメリカの国土はあまりにも違う。道路はどこもかしこも舗装されているし、内陸に走ればすぐに急峻な山岳地帯にぶつかる。そんな土地でアメリカのようなバイクパッキングは、果たして可能なのだろうか?
「アメリカではそうだけど、日本のバイクパッキングにはまだ決まりも教科書もないところが僕には面白いんです。頭でっかちにならず、日本の土地や風土にあった楽しみ方をすればいいと思う。まだ根付いていないカルチャーだからこそ、自分たちが遊びたいように遊んだり、枠を外していく想像力が大事で。日本にはコンビニが多いから荷物は本当に軽くできるし、里山にも林業のための作業道が張り巡らされているから、標高を上げなくても楽しめるセクションがいっぱいある。普通なら国道を行くルートでも、ちょっと目線を変えて里山の旧道に入ったら楽しめる時間に変わったり。山が好きでマウンンテンバイクが好きな僕には僕の好きなバイクパッキングのスタイルはありますけど、ロードバイクの人にはロードバイクの人のバイクパッキングあっていいと思うし、日本ならではの、いろんなスタイルのバイクパッキングがあっていいんじゃないかな?」

最初のスイッチに震えた瞬間、
バイクパッキングが始まる

バイクパッキングにおいて、多くの人が不安に思うのが本当にハンドルバーバッグやサドルバッグなどの容量だけで、キャンプ道具を持ち運べるかのか、ということだろう。
「軽量化のポイントは、まずなんといっても余計な道具を持っていかないこと。サドルバッグにしてもハンドルバーバッグにしても、その中に入るものだけを選んでいけば、結果的には軽くコンパクトにせざるを得なくなる。テントをフロアレスシェルターやタープにすれば劇的に軽量化できるし、道の駅の軒下とかで眠るのでも良いと思えば寝袋とマットだけでも良いだろうし、今は軽くてコンパクトな道具がたくさんあるから、旅の行程を考えてきちんと道具を選べば、なんとかはなるはずです。バイクパッキングは、旅の行程を想像してみて、それを楽しみたいとどれだけ思えるかがスイッチだと思うんです。たとえば『野宿しながら日本海から太平洋まで行きてぇ!』って思うかどうか。その最初のスイッチに震えて行きたくて我慢できなくなったら、それによって自転車も装備も決まってくる。毎日100~200km移動したいと思うならロードバイクだし、峠の林道とかにも行きたいのであればシクロクロスが良いだろうし、僕らなら山のシングルトラックを駆け下りたいからマウンテンバイクを選ぶ。僕の理想のバイクパッキングは、林道とか林業の道をうまく山地図で見つけ出して、ある程度標高の高い起点になる場所まで担ぐなり押すなりして上がって、そこから高い標高をキープしつつも長~い下り坂を海まで1泊か2泊かけて下りていければ最高ですね。日本海の方にはそういう場所が、実はポロポロあるんですよ。だからいつもできるだけ長く、楽しく、効率的に下れる場所を探しています。僕にとってバイクパッキングは『全部入り』なんですよ。自然の中に入れて、山で泊まれて、綺麗な星も観れて、しかもチャリンコで下れる。超最高ですね(笑)。」

千代田さんの最近のお気に入りは、ハンモックでのキャンプ。基本的に樹林帯を旅することの多いバイクパッキングならばハンモックを吊るせる木はどこでも見つかるし、ポールがいらないので装備の軽量化にも繋がる。

千代田さんのバイクパッキング装備の一例。温暖期(取材は8月)の里山ライドならば、この程度の装備で充分キャンプできるのだ。

1 OMMマウンテンレイド1.0/わずか380gの化繊ダウン寝袋。
2 OMMローターベスト/温暖期なら防寒着はベストで充分。135gなのでお守り代わりに携行できる。
3 ハミングバードハンモック・シングルハンモック/手のひらサイズに収納できるシンプルなハンモック。147g。
4 インテグラルデザイン・シルタープ1/ハンモックの屋根にミニマムなタープを携行。ふたつ合わせても360g。
5 ibexウーリーズ150ボトム/メリノウールのタイツ。
6 Nemoテンサー20s/ハンモックは意外と背中が冷えるため、軽量コンパクトなエアマットも携行。
7 山と道メリノヘンリーTシャツ/少し厚手のメリノTシャツは主に就寝時用。
8 グリベル・モンスターグローブ/インパクトのあるグローブは実はアイスクライミング用。
9 クッカー&ストーブセット/フリーズドライやラーメンだけなら調理はお湯を沸かせれば充分。固形燃料を愛用。
10 ファーストエイドキット。
11 ファイヤーボックス・ナノストーブ/キャンプでのお楽しみアイテムとしてウッドストーブを携行。ポケットに入る小ささながら驚異的な燃焼効率を誇る
12 アピデュラ・サドルパック/雨に強いX-Pac素材。千代田さんはMTB用にはコンパクトサイズを愛用。
13 アピデュラ・ハンドルバーパック/こちらもハンドル操作のしやすいコンパクトサイズ。取材時に千代田さんはフレームバッグを使っていなかったが、それでもこれだけの荷物を持ち運ぶことができる。

写真・テキスト / 三田正明

千代田 高史
/ Moonlight gear / NOMADISK

東京都岩本町にあるムーンライトギアとそのウェブショップを始め、海外ブランドのディストリビューションやイベントやレースの運営、オリジナルやコラボレーションのギアの開発など、様々な発信を続けるNOMADICS代表にして、現在のオルタナティブなアウトドアシーンにおけるキーパーソン。バイクパッキングはもちろんハイキングやトレイルランニング、ファストパッキングなど様々なアクティビティを楽しむが、実はアウトドアの入り口はマウンテンバイクだったのだとか。
http://moonlight-gear.com