FR100

外遊びの新しい「カタチ」
ハイキング編 / 前編

DECEMBER 6, 2016

きっかけはウルトラライト・ハイキング(以下UL)だった。
90年代後半、アメリカのスルーハイカーたちの間で生まれたこの方法論は装備の軽量化を一気に加速させ、ゼロ年代後半には、その方法論は他のアクティビティにも広がっていくことになる。
たとえば、ファストパッキング。ULよりさらに装備を軽量コンパクト化することにより、オーバーナイトでのトレイルランニングを可能にした最新型の登山スタイルだ。
たとえば、バイクパッキング。「自転車版UL」ともいえるこのアクティビティは、サイクルツーリングの可能性を一気に広げ、「アドベンチャーバイク」は自転車の新ジャンルとして確固たる位置を築いている。
たとえば、パックラフティング。まさにウルトラライトなカヤックであるパックラフトは、ULハイキングやバイクパッキングとも呼応しながら、水の上と陸の上を行き来する新しい旅のスタイルを生んでいる。

FASTPACKING

「ファストパッキングっていうと、たとえば歩くと3~4日かかるルートを1泊2日で行くような、ハードなイメージを持っている人が多いと思うんですけど、僕はそうでないファストパッキングがあってもいいと思うんです。」
そう語るのは、アウトドアライターの根津貴央さん。総距離4000㎞以上に及ぶアメリカのパシフィッククレスト・トレイルをスルーハイクしたロングディスタンスハイカーであり、近年ではウェブサイト『On your mark』でのトレイルランナー石川弘樹氏の連載において、氏と共に国内外のトレイルを駆け巡るファストパッカーだ。
「もちろん、ファストパッキングの『ファスト』って部分に挑戦する人がいてもいいけれど、そこまで速さを意識せずとも、『歩く、走る、泊まる』っていうファストパッキング本来の要素を純粋に楽しむだけでも良いと思うんです。走ることに苦手意識を持っている人にこそ、ぜひその楽しさを知って欲しいですね。装備が軽量なら緩やかな坂を駆け下りるくらいのことは難しくないですから。」

走るという手段を手に入れることで、
より自由になれる

“ファストパッキング”という言葉の誕生は意外と古く、1998年『ウルトラランナーズマガジン』において、ジム・ナイトとアルティメイト・ディレクションの創業者・ブライス・サッチャーが、ワイオミング州ウインドリバー山脈での160㎞に及ぶ旅を38時間で完遂したことを指して、自らそう呼んだことにあるという。
「でも、それ以降アメリカでファストパッキングのムーブメントが起きたわけじゃなくて、2010年代に入ってトレラン文化の成熟とウルトラライトハイキング以降のギア軽量化の流れのなかで、衣食住の装備を背負って走ることが難しいことではなくなった。それで数年前から新たなアクティビティとしてクローズアップされ始めたのだと思います。」
根津さんのファストパッキング初体験も2014年、前述の石川弘樹氏との連載企画においてだったという。
「瑞牆山から雲取山まで、奥秩父~奥多摩の主脈縦走路を一泊二日で行ったんです(通常は4~5日かかる)。ただ、それはしんどかった(笑)。でも、そのとき石川さんがすごく楽しそうだったんですよ。『俺はこんなに辛いのに、何が楽しいのかな?』って。そのとき彼は『走るのって楽しい』ってずっと話していて、『ちょっとおかしな人だな』って(笑)。でも、山を走るのが楽しいって感覚を自分も体感してみたくなったんです。それからトレランで山を走る回数が増やしたら走力がついてきて、またファストパッキングをやってみたら、奥秩父で味わったしんどさがなくなったんです。そこからどんどんはまっていった。」
そうして根津さんが掴んだ「山を走る楽しさ」とは、いったいどんな感覚なのだろう?
「新しい武器を手に入れたような感覚ですね。走るという手段を持ったことで行動範囲も広がったし、より自由になれた。スピードが上がることは選択肢が増えることで、それってイコール自由度が増すってことなんです。あと、山を縦横無尽に駆け巡っているとそこに住む一匹の獣になったような、野生に還ったような気分になるんです。それはハイキングでは味わったことのない感覚ですね。」

ファストパッキングのスタイル

1)メッシュキャップ
近年、ハイカーやランナーに人気。定番のトラッカーキャップはもちろん、サイクリングキャップのようなかぶりの浅いスタイルも定着しつつある。

2)ウインドシャツ
超軽量で透湿性と防風性に優れたウインドシャツは、ここ10年で完全に定番化した。とくに運動量の多いファストパッキングでは、一枚あると重宝する。

3)トレッキングポール
行動中よりむしろシェルターやタープを立てるときに使用するので、なるべく軽量なモデルを選びたい。より軽量化したい人はテントポールを選ぼう。

4)バックパック
バックパックの容量はそれ以上になると走りにくくなるので、25L~35L程度に収めたい。近年ではファストパッキング用モデルも多くある。

5)ハイドレーションパック
ファストパッキングではやはりハイドレーションパックが便利。喉が乾く前にこまめな水分補給を。

6)レコーダー
旅の記録を残すなら、タフなカメラがベスト。FR100ならギアなどに取り付けが簡単なので、撮影への動作が最小限に。

7)ベースレイヤー
せっかく速乾性・防臭性に優れた機能性ウェアを着てるのだから、着替えは最小限でOK。

8)ショーツ
ボトムはやはりショーツが快適。特にトレラン用などのメッシュのインナー付きショーツの開放感は気持ち良い。

9)トレランシューズ
実はメーカーやモデルごとに特性や履き心地が大きく違うトレランシューズ。信頼できるショップでじっくり選びたい。

10)シェルター
ファストパッキングのテントはフロアレスシェルターやタープ、ツエルト等が基本。これにより大幅な軽量化が図れる。


写真・テキスト:三田正明

根津 貴央
/ ライター

ハイカー出身、トレイルランナー経由のファストパッカー。スタイルに縛られることなく、国内外問わず様々なフィールドで山遊びを縦横無尽に楽しんでいる。現在、ライターとして主にアウトドアメディアに寄稿、著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)がある。今年8月に発売されたばかりの石川弘樹『トレイルトリップガイドブック・ファストパッキング入門』(講談社)の構成も担当している。