FR100

外遊びの新しい「カタチ」
ハイキング編 / 後編

DECEMBER 27, 2016

きっかけはウルトラライト・ハイキング(以下UL)だった。
90年代後半、アメリカのスルーハイカーたちの間で生まれたこの方法論は装備の軽量化を一気に加速させ、ゼロ年代後半には、その方法論は他のアクティビティにも広がっていくことになる。
たとえば、ファストパッキング。ULよりさらに装備を軽量コンパクト化することにより、オーバーナイトでのトレイルランニングを可能にした最新型の登山スタイルだ。
たとえば、バイクパッキング。「自転車版UL」ともいえるこのアクティビティは、サイクルツーリングの可能性を一気に広げ、「アドベンチャーバイク」は自転車の新ジャンルとして確固たる位置を築いている。
たとえば、パックラフティング。まさにウルトラライトなカヤックであるパックラフトは、ULハイキングやバイクパッキングとも呼応しながら、水の上と陸の上を行き来する新しい旅のスタイルを生んでいる。

FASTPACKING

ファストパッキングなら、
地味な低山の良さも感じられる

これからファストパッキングを始めようという人には、「べつに全部走る必要はないし、走りたいとこだけ走ればいい」という根津さん。
「最初はあくまでハイキングがベースで、そこに少しずつランを取り入れればいいんじゃないかな。下りだけでも走ってみるとアドレナリンが出るし、楽しさや気持ち良さが味わえると思います。ファストパッキングって普通は2泊3日で行くコースを1泊2日で行くようなイメージを持たれることが多いと思うんですけれど、いきなりそれをやるとリスクが高いから、1泊2日で行ける場所に普通に1泊2日で行ってみて、途中走れそうな場所は走ってみる。テント場に早く着いたら着いたで、昼寝でもすればいいじゃないですか(笑)。」
ともあれファストパッキングである以上、装備は極限まで軽量化する必要がある。なので、山での経験の浅い人は行き先も慎重に選ぶ必要があるだろう。
「ファストパッキングでは軽量化のため、テントは非自立式のツエルトやタープやシェルターが選ばれることが多いんですけど、いまファストパッキングやろうって人って、ハードコアな人がよく行ってるのですぐ北アルプスとか目指すことが多いんです。でも、森林限界の上でタープで寝たりするのはリスクが大きいので、これから始めようという人はまずは森林限界以下の山域にした方が良いと思います。それに、アルプスのような高所はガレた岩場も多いし、登るのもしんどい(笑)。もっと走って気持ち良い、比較的なだらかな山を選ぶ方が良いんじゃないかな。普通だと見落とされがちな地味な低山の良さを感じられるのもファストパッキングの魅力ですから。」
初めてのファストパッキングにオススメの山域は?
「たとえば、箱根外輪山はトレランでも人気の場所ですけど、ファストパッキングの初心者にもお勧めです。箱根湯本の駅から25㎞くらい走ったり歩いたりして芦ノ湖のキャンプ場に泊まって、2日目にまた25㎞走って箱根湯本に帰る周遊ルートです。」

(下写真)テント場に着き、いつものキャンプスタイルでくつろぐ根津さん。軽量なソロ用タープがお気に入りだとか。

緩い下り坂だけでも走ってみれば、
きっと楽しさが伝わるはず

ファストパッキングが“ファスト”である理由は、走ることはもちろん、装備が軽量であることもそのひとつだ。「キャンプ道具なんか持って本当に走れるの?」と思うかもしれないが、大幅な軽量化の進む現在、適切な道具選びをすれば「走れる」バックパックの総重量7~8kg程度を達成することはそう難しいことではない。その上で、ファストパッキングの装備において最も重要なことは軽さよりコンパクトさであると根津さんはいう。
「たとえばクローズドセルのマットは軽いし寝心地も良いけど嵩張るから、それをバックパックに外付けして走ると揺れてしまい、長い距離は走りづらい。だから僕はファストパッキングではコンパクトになるエアマットを選びます。この“揺れ”は走りやすさに大きく関わってくるので、バックパックの容量も30Lくらいで抑えたいし、なるべく重心が上に来ていてブレにくい、ある程度走ることを想定したものを選んだ方が良いですね。だからまずはそういうバックパックを用意して、他の道具はそれに入るものを考えていくのが良いと思います。いちばん軽量化できるものはテント。ツエルトとかタープとか、非自立式にすると劇的に軽くなります。」
ともあれ、装備の軽量化はその人の山での経験やスキルが安全性にも大いに関わってくるので、安易に「正解はこれ」とは言えないとも根津さん。
「だからやっぱり最初はハイキングはハイキング、トレランはトレランで楽しんで、徐々に経験を積んでファストパッキングに挑戦する、というのが理想だとは思います。とにかく最初は緩い下り坂だけで良いので、トレイルを走ってみて欲しいですね。きっと楽しさが伝わるはずですから。」
“ファストパッキング”という新たな呼び名が着いたとはいえ、自然のなかを旅するという行為そのものは、縦走登山やバックパッキングと何ら変わりはない。変わったことがあるとすれば、装備の面でも行動の面でも、より軽量に、自由になったということだろう。自由になって何をするのか、それもあなたの自由だ。

根津さんのファストパッキング装備。水と食糧と燃料を除けば4kg程度しかないが、ご覧の通り必要なものはすべて揃っているので、キャンプでもそれほど苦労は感じないとか。ポイントは、まずいるものといらないものを区別すること。一度すべての道具の重量を計ってみて、その上で持っていくのかいかないのか、もしくはもっと軽い物に変えるのか、考えてみることから軽量化は始まる。

01)バックパック/パーゴワークスRUSH28
02)クッカー/エバニュー・チタンクッカー
03)コジー/アンチグラビティギア・コンテナコジー
04)カトラリー類
05)カップ/ウィルド・フィールドアカップ
06)燃料アルコールボトル
07)ハイドレーションパック/グレゴリー・リザーバー2L
08)アルコールストーブ/フリーライト・フレボR
09)ファーストエイドセット
10)トイレセット
11)風防/トークス・チタニウムウインドスクリーン
12)水筒/プラティパス・プラティ2Lボトル
13)レインウェア/アクシーズクイン・アメノヒ
14)ウインドパンツ/パタゴニア・フーディニパンツ
15)タイツ/パタゴニア・サーマルウェイトボトル
16)防寒具/ホグロフス・リムパワードライフード
17)シェルター/フリーライト・スイングタープ
18)防虫ネット/シートゥサミット・ナノモスキートネットシングル
19)マット/クライミット・イナーシャXライト
20)ペグ類
21)トレッキングポール/マウンテンキング・トレイルブレイズ
22)寝袋/ハイランドデザインUDDダウンバック
23)サコッシュ/883デザイン・フラップサコッシュ


写真・テキスト:三田正明

根津 貴央
/ ライター

ハイカー出身、トレイルランナー経由のファストパッカー。スタイルに縛られることなく、国内外問わず様々なフィールドで山遊びを縦横無尽に楽しんでいる。現在、ライターとして主にアウトドアメディアに寄稿、著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)がある。今年8月に発売されたばかりの石川弘樹『トレイルトリップガイドブック・ファストパッキング入門』(講談社)の構成も担当している。